福祉の仕事 | 294job.com





  
Vol.82 若者の介護離れ、あなたは「社会の嫁」になりたいか?

 ショックな新聞記事を見つけた。

「介護養成校への入学者が今年度、06年度より13%減少」(12月19日東京新聞)

 大学、短大、専門学校、高校の専攻科の介護養成校への入学者は、06年度に
 は全国で1万9289人(4月1日の入学者数)だったが、今年度は1万6696人に。
 2500人あまりが減ってしまった。学生減の影響で、閉校を決めた専門学校も
 現れた、というのだ。
 その原因は、待遇が悪いのに仕事はキツイ介護の仕事の実態が広く知れ渡っ
 たこと。コムスン事件で介護に関する報道が増えた副産物だろう。
 そして折からの景気回復でほかの産業に人が流れていく傾向がでていること
 がある、と記事は指摘。
 「いま、介護従事者が『社会の嫁』にされている」
 高齢社会をよくする女性の会会長の樋口恵子さんが、介護の労働環境改善を
 訴えるシンポジウムで、こう言ったそうだ。
 元々、介護は家族の中で嫁に押しつけられる仕事だった。介護サービスを家
 族の実情に合わせて使えるようにして、介護を嫁への押しつけから、社会で
 担うものにする。それが介護保険導入の目的だったはず。
 しかし、いざ介護保険をはじめてみると、社会での担い手である介護従事者
 に、極端なしわ寄せがきている。
 介護保険制度の導入前は、職員の給与は税金から賄われ、公務員に準ずる高
 給だった。しかし制度が始まると給与は介護報酬から出るようになり激減。
 昨年の改定でさらに介護報酬は引き下げられ、雇い主である介護の事業所は
 職員の人件費をさらに削る。
 介護保険制度の導入以来、こんどは、家の嫁のかわりに介護従事者を「社会
 の嫁」として、社会が安く使っている。
 樋口さんは巧みな表現で、現実を指摘したのである。

 介護の仕事の窮状を象徴する数字を、もう一つ、新聞から拾おう。
 いま現場で働く介護福祉士は24万人。それに対して、資格はあるが現場を離
 れている人は38万人に上る。
 高い学費を払い、資格取得のため努力している最中の学生は、この数字をど
 う受け取るだろう。

 読者のみなさんは、すでに介護養成校なり福祉の仕事に関連する学校に入
 学した学生であろうから、若い世代の介護離れの傾向を、新聞に記事が載
 る以前から、感じ取っていたに違いない。
 就職が確実だからその道を選んだのか。家族や祖父母の介護などで、プロの
 仕事の尊さを知ったなど実体験に基づく志があって、選んだのか。
 動機はともあれ、介護従事者を日本の社会がどう扱うか、これから数年間は
 模索の時期になるだろう。
 政府は「7年後にヘルパー含め介護職員を40万−60万人増やす必要がある」
 と試算している。需要はある。むしろ増えている。でもなり手は減っている。
 圧倒的な売り手市場であるはずなのに、待遇はまるで逆行している。
 いま学生であるみなさんは、そんな過渡期に、介護の勉強をしたプロとして
 世の中に飛び立つことになる。

 しかし。私見だが、考えようによっては、今後数年間は、チャレンジングな
 時期になるかもしれない。業界は、変わらざるを得ない。人間の真摯な仕事
 には、それに見合う報酬が支払われなければならない。介護の現場は、もう、
 極限に近い状態にあるはずだ。いまその現場に飛び込むということは、変革
 の現場に飛び込むことでもある。

 先頃、自動車工場などの製造派遣労働者の人たちが立ち上げた組合の取材を
 した。
 06年、新聞に、派遣労働者の知らないところで派遣会社と自動車会社によっ
 て、雇用契約が偽装されていた、というスクープ記事が載った。派遣の人た
 ちは、「派遣だと思って、自分たちに説明もせずに」と怒り、組合を結成。
 偽装雇用のほかにも、ありえない給与額を記したウソの求人広告を連発して
 いたなど、派遣会社が当たり前に行ってきた手法の欺瞞を、次々に暴いてい
 った。
 そして07年、今年夏までの1年間に、年収にして30万円の増加を、会社から
 勝ち取った。
 民間の産業における雇用の話が、即座に参考になるとは思わない。でも、窮
 地に立って、製造業派遣の人々は声をあげ、連帯し、動き始めた。
 介護のプロの連帯も、これから、広がるだろう。
 「社会の嫁」のレッテルは、返上してほしい。
 これで最終回です。愛読ありがとうございました。


コラム目次へ