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Vol.81 「貧困」に追いやられて、なるものか

 12月に入って、福祉学生必見のニュースがかけめぐった。生活保護費が切り
 下げられる見通しだというのだ。
 低所得世帯の生活費の実態よりも、生活保護で支給される「生活扶助」の金
 額の方が、わずかに高い。働いている人より、働いていない人が多くもらう
 のは、おかしい。
 これが厚生労働省の理屈である。

 夫婦と子供1人の低所得世帯の生活費が月額14万9000円。
 対して同じ家族構成の人への生活扶助が1600円高い―といわれたって、それ
 は低所得者の生活費だけを考えたって十分に、低い水準の暮らしである。
 当然、反論続出だ。新聞は社説などで、憲法によって、健康で文化的な最低
 限の生活が保障されている、むしろ低所得者世帯に生活保護との差額を払う
 べきだと言う。
 背景には、国が方針を決めている社会保障費の圧縮政策がある。厚生労働省
 は来年度で1200億円の削減を求められている。
 だからといって、なぜ、貧困層への支援から、絞りだそうとする?

 私の知り合いで生活保護を受給している女性は、いつも「ワーカーさんから、
 『早く卒業してね』とプレッシャーをかけられてる」と言っている。
 そのプレッシャーのせいなのだろう。

 『生活保護を受けているのは恥ずかしいこと。脱却すれば、自分の誇りを取
 り戻せる』と、本人は信じて疑わず、もはや刷り込まれているかの様子。
 でも虐待家庭で育った彼女は、精神的に不安定で対人関係が苦手で、生活保
 護を返上したら即・ワーキングプアを強いられるであろうことは、気の毒だ
 が、見えている。
 日本は豊かだからのたれ死ぬことはないだろう、といった通俗的な信念は、
 もう存在しない。ことし北九州で生活保護を打ち切られた男性が餓死した事
 件が、その象徴だった。
 「お金で死なないための本」(太郎次郎社エディタス、千葉保など著、イラ
 姫・絵)という本がある。

 この中で、貧困者の生活支援をするNPO「自立生活サポートセンター・も
 やい」の事務局長、湯浅誠氏は、「貧困」とはなにか、こう説明している。
 「貧乏とは、お金がないこと。でも貧困というのは、お金もふくめて、ほか
 に」いろいろなものが足りない状態のことです」
 つまり、お金がなくなっても、頼れる家族がいれば家と食事の心配はいらな
 い。友達がいれば、仕事を紹介してくれるかもしれないし、なにかの支えに
 はなってくれるだろう。

 でも、家族も友達もいなければ? 貯金がなくなれば、すぐさま、頼れるも
 のが皆無になってしまう。
 なににも頼れず、お金もなくて追いつめられて、肉体的にも精神的にも、ま
 いってしまう。そういった状態が、貧困なのだと湯浅氏はいう。
 困ったことが起きた時、ダメージをやわらげるクッションの役割をしてくれ
 るもの。具体的には、家族や友達や知り合いなどの、人とのつながり。それ
 らを「ため」と湯浅氏はよび、「若い人たちに、こういった『ため』のない
 人が増えている」という。

 人付き合いだって、お金がないとできなくなる。
 寒い冬、友達と会うのに公園で座ってただ喋る、という訳にはいかない。電
 車で待ち合わせ場所まで行って、喫茶店で珈琲を飲む。それだけで、下手す
 れば何千円もかかるなら、節約のため人に会わずに家にいよう、とお金のな
 い時は考えてしまう。
 こうして人との繋がりも、すり減っていく。ためがなくなる。

 生活保護の打ち切りは、国が、低所得者から「ため」を奪おうとする恐ろし
 い政策だ。
 それにこれは誰にだって関係のない話ではない。
 いま、貧困やら生活保護やらに縁のない人だって、「ため」がなければ何か
 の折に、一気に転がり落ちないとは限らない。
 私たちは、「ため」を守り、奪われないために、声をあげなければならない
 所まで、来ているのではないか。


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