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読者のみなさんは、20歳前後の方が多いと聞くから、今のところまだ「最近、
物覚えが悪くって」と嘆くといったことは、ないだろう。
今、私は「記憶にない」に悩まされている。
みなさんはたぶん生まれる前だろう。あるアイドル雑誌があった。今でいえ
ば、エリカ様とか関ジャニとか、若い人が好きな若手タレントばかりを載せ
るグラビア誌である。全盛期は毎月100万部を売っていたというから、今で言
えば、週刊文春なんかの部数は軽く越す。
ピンクレディーとかトシちゃん(誰、と言わないでネ)のファンだった小学
生のころ、私も毎号、読んでいた。
私はその雑誌で名をはせたある編集者について調べている。
その人が担当した元アイドルで、今も芸能界で活躍している人はみな、本当
に超のつく大物スターになっている。その編集者は物故者である。が、非常
に細やかな気配りと、明るさ、優しさで、若手スターにとって「心を許せる
お姉さん」だった。個人的に、飲みに行ったり食事をしたりという交流があっ
たと聞いている。
そこでスターたちに、「すみませんが、編集者だった○○さんについて、話
して頂けませんか」と電話をかける毎日なのだ。
驚くのは、スターの方々の反応が、まっぷたつに分かれることである。
「覚えてません、と言ってます」
マネージャー経由で、こう、伝えてくる人がいる。私が電話をしているのは、
これまでの取材の中から、その編集者とは仕事の垣根を超えて懇意にしてき
た、と証言を得ている芸能人ばかりである。
そんなはずはないんですが、とマネージャー氏に言っても仕方ない。
一方で、「○○さんについてなら、ぜひ、お話します。お世話になりました
から」
と快諾してくれる方もいる。
覚えている人の方が覚えていない人より性格もよさそうで、とか、忙しそう
で、といった「傾向」は、まったく見あたらない。
おそらく同じくらい、ある時期、親しく付き合っていた芸能人と編集者。雑
誌はなくなり、編集者も亡くなった。芸能界に、そしてこの世に生き残る側
が、なぜ、いつまでも記憶に留めている人と、忘れ去ってしまう人とに分か
れるのか。
人の記憶を巡る難しさを、痛感するのである。
私は、自殺をしてしまった女の子についてのルポ「問題少女 〜 生と死の
ボーダーラインに揺れた」を書いてから、知り合った人に何度か、こう言わ
れたことがある。
「私も、あの本の女の子みたいに、死ねば、長田さんの記憶に強く留めてもら
えるのかな」
馬鹿なことを言わないで、とその言葉に対しては否定するが、一冊の本を書
くという動機の背後には、その人のことを自分の、そして自分をこえて見も
知らない他人の記憶にまで留めたい、という強い思いがあったのは確かだ。
ではある人Aを巡る記憶とは、Aとの交流において、Bがどのくらい強く情
動を揺さぶられたかによって、Bの記憶に刻まれる深さが違ってくるのだろ
うか。
BにとってAは、深刻な悩みを抱えていた時に優しく声をかけてくれた外部
者だったのか、仕事も恋も絶好調、みたいな最中に交流した通りすがりの仕
事関係者、だったのか。Bの当時の状態によって、Aを脳の深く刻むか浅い
位置に留めておくかは、異なってくるのかもしれない。
とそんな「仮説」を元に、私は再度チャレンジする。スターたちに、その編
集者の顔写真と手紙を書いて、投函するのだ。
「ああ、この人のことか!」
と膝を打ってくれるのを、密かに期待しながら。
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