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Vol.75 「社会起業家」という道もある



 コムスンの在宅事業の譲渡先が決まった時、選定にあたった堀田力弁護士が言
 っていた。NPOや社会福祉法人をもっと選びたかったが、サービス継続や財
 政基盤の面でこうなった、と。
 こう、というのは、選ばれた事業者には、ジャパンケアサービスなど大手介護
 事業者が多かったことを指す。
 もっと小さくて、地域に根ざした介護事業を担える組織があれば任せたかった、
 という堀田氏の本音がにじみ出ていたと思う。
 組織の規模の大小で、介護の質が決まる訳ではない。介護は、究極のマンツー
 マンで営まれる行為だ。奢った大企業にもわずかながら良心的な担当者がいる
 ように、またコツコツ働く社長さんが営む中小企業にも、出来の悪い社員がい
 るように、ある人が心温まる支援を受けられるかどうかは、「担当者との出会
 い」次第だ。
 であれば、小さくても確実に、心ある担当者を集めた組織であれば、信頼が得
 られる。そこで介護を受けたい、と思う人からの引き合いは、きっと増えるだ
 ろう。
 前回、世界的な政治や経済の潮流として、新自由主義化が進み、その結果、福
 祉を巡る状況は、ますます悪くなっていくだろうと書いた。
 でも、人間って社会って、捨てたモノじゃないなと思うのは、その穴埋めをし
 ようとする人々が、現れ出したと知るからだ。

 それが「社会企業家」と呼ばれる人たちだ。
 介護でも環境問題へのアプローチでも、なんでもいい。
 社会のためになることを、ビジネスの種にする。事業性と社会的な意義の両方
 を追い求める起業をする。
 こんな考えで、事業を興す人のことを「社会起業家」と呼ぶ。
 小さな政府化が日本よりずっと先に進んだイギリス、そしてアメリカなどでは、
 「ソーシャルベンチャー」あるいは「ソーシャルアントレプレナー」と呼ばれ、
 だれもが知る企業に成長した所も多い。ホームレス支援をするアイスクリーム
 屋の全国チェーン、なんていうものもある。
 バングラディシュで最貧層の女性たちに低利で融資をするグラミン銀行が、昨
 年のノーベル平和賞を受賞したことも、「社会起業家」という概念に世界が注
 目する契機になった。

 日本ではどんな人・どんな事業があるか。
 9月3日、4日にNHK教育テレビ「福祉ネットワーク」(夜8時から)で、紹介
 していた「社会起業家」は、ある男性が、妹が目も耳も不自由な男性と結婚し
 たことをきっかけに、盲聾者が働く場を作ろうと、企業へ出張マッサージを派
 遣する事業を手がけ始めた、という話。
 外資系企業で「利益追求」だけを課される働き方に嫌気がさしていたことも、
 起業のきっかけになった、と彼(36歳)は話していた。
 この彼だって理念は素晴らしいが、経営的にはとても大変そうだった。いくら
 有志が現れて、社会起業家の存在が話題に上ろうとも、国が「じゃあ民間にお
 任せします」と福祉から手を引いてよい訳ではないと、私は思う。そこは議論
 なり、監視が必要だ。
 でも社会起業家という概念を知れば、福祉の学生である読者の方々の、働き方
 にも一つの選択肢を加えることができるのではないか。
 既存の企業や社会福祉法人に、勤めるだけではない。自分で、自分の感じた社
 会のニーズを満たすため、「起業」するという方法だってあるのだと。

 ちなみに、私も、いま発売中の日経トレンディにて、日本の社会起業家を取り
 上げている。ニートの支援をする20代、東京から故郷へ戻って地元企業への学
 生インターン仲介をする20代の女性、などを紹介させてもらっている。書店で
 見てみてください。


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