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Vol.72 身体を使うと頭がよくなるそうです


40歳になりました。ありがとう(おめでとう、と言われたと仮定して)
さて40歳になる目前に、筆者が空手を始めたという話を、当欄で書いたかどう
か。

半年前、近所に空手道場があるのを発見し、通い始めた。
武道や道場の効用については、最近、ひろく語られている。
引きこもりや自傷行為のある若者が、道場に通うようになって、元気を取り戻
したといった話、それにパイレーツに移籍した桑田投手が古武道を投球に応用
し復活したという話題も、武道人気に寄与しているようだ。
「下流志向」が大ヒットした思想家の内田樹さんは、合気道の稽古を続けてい
る武道家で、「私の身体は頭がいい」という武道にちなむ名エッセイ集を出し
ている。

表題作が最高に面白い。
内田さんは、「頭のいい人」に対しては無条件に敬意を抱き、「バカ」には無
条件で敵意を抱くという。
そしてだれか人のそばによると、「ぴっ、ぴっ。こいつバカですよ」と体が信
号を発する、というのだ。「ぴぴ、賢い人だ」信号もあるのだろう。
傲慢に聞こえる。

もっとも内田さんは、自分のことは「頭が悪い」と認識する。
ではなぜ「頭の悪い」内田さんが、他人のことを瞬時に判断できるのか。
いわく、内田さんの頭は悪いが、身体は賢い。
頭より身体が賢い。だから頭では、そばにいる人が賢いかどうか分からなくて
も、身体は瞬時に判別してしまうのだ。
そして、現実の社会生活において、身体の判断が間違っていたことは一度もな
い、という。
内田さんの歩んできた武道歴を読む限り、その内田さんの「賢い身体」は、武
道をもって生み出されたのは間違いない。
とすると、武道を続けていけば、どんなバカでも、その人の頭よりは「賢い身
体」が生まれ得る、ということに違いない。やるしかない。

というものの、私の場合はそんな効用をもとめて空手を始めた訳もなく、なに
か運動したいな、近所に道場があるから行ってみよう、という単純な動機で道
場を選んだ。
幸いにも道場生は、子供も大人も、気持ちのいい人ばかり。楽しくて、つい
週3、4回は道場へ通い、筋肉痛が1日たりとも収まらない日常生活を営む羽目
になっている。
今のところ、身体が賢くなった気配は、ない。徴候もみられない。

でも、道場通いに効用があるのは、実感している。
仕事でどんなに辛いこと、重苦しく落ち込む出来事に遭遇しても、たった1時
間の稽古で、その重さは、半分に軽減してしまうのだ。
不思議なものだ。
幼稚園から初めて空手歴5年、とかの小学生を横目に、40歳の私がケリや突き
を繰り出すのは、苦行としかいいようがない。情けないわ、自分の身体がはが
ゆいわ。
でも、技を体得したいと必死に師をまね、叱咤されながら体を動かし、声を出
す行為は、現実社会で私の頭が背負ってしまった重さを、確実に、軽くしてく
れる。
そのうち、身体の賢さにも、つながっていくのだろうか。
それは分からないが、先日のニュースによると、桑田投手の古武道は、介護の
現場でも取り入れられているとか。
読者のみなさんにも、武道は何らかの形で、役に立つだろうとお勧めしたい。
頭にも、きっと身体にも、なにかをもたらしてくれるはずだ。

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