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Vol.70 再び見合いサイトにおける「プレゼン」考


 介護保険の不正請求問題で、介護業界が揺れている。福祉学生のみなさんも、
 気が気でないだろう。でも2000年に介護保険制度がスタートして7年、法の穴
 も制度の抜け道も、今回の大激震で、かなり可視化されたはず。介護を担う
 現場の人々の誠実な労働が、きちんと報われる仕組みを作るための礎であっ
 てほしいと、願うばかりだ。

 さて前回、その前と、「見合いサイト」での実感を書いた。だいたい男性陣
 は、女性陣に比べて、プレゼンテーション(紹介文やプロフィール)がなって
 ない、と。
 思うに、何についても「自己アピール」が必要なのは、市場経済が日常生活
 のあらゆる側面に浸透しているから。市場経済、なんて大きな話のようだけ
 れど、ネット上での「結婚」「恋人探し」だって、男女双方の参加者による
 セリ、といえなくない。
 そういったサイトでは、「検索」によって、相手候補を探すのだ。
 相手に求める「職業」は--公務員か、自営か、金融か不動産か。
 では「年収」は?「300万円以下」か「1000-1500万円未満」「1500万円以上」
 か。「体型」(太め、普通、ぽっちゃり、筋肉質、など)から「血液型」「星
 座」まで、選択肢がある。そういった条件を入力し、示された「お相手候補」
 に、こんどはメールを送る。お相手候補は、私のプロフィールとメール文章を
 見て、ふんふん、これではね、と返事をするかどうかを決める。
 当然、自分も相手側の検索対象になっている。見知らぬ人からメールがわん
 さか来る中で、これは返事しよ、これはやめとこう、と取捨選択。嫌な表現
 だが、まさに、それは取捨選択という行為そのもの。
 ここまでが、いわば予選である。通常は、メール交換を重ねた後に、直に会
 う。その瞬間こそが、本選のスタートだ。

 話は飛ぶが、みなさんは、どういう時に「トクをしたな」と感じるだろう。
 かねてから欲しかったものを買いに行ったら、たまたま2割引で売られていた。
 何気なく手に取って買った本が、めちゃくちゃ、面白かった。
 共通するのは、サプライズ、だ。期待を上回る体験をした、ということだ。

 最近の私のサプライズは、バイオリニストの五嶋みどりさんの記者会見だった。
 みどりさんの大ファンである私は、無理矢理、雑誌に企画を提案してご本人
 にインタビューしたことがあり、その縁で、みどりさんの社会貢献活動の成
 果を報告する会見の案内を、事務所から頂いた。
 案内には、ベトナムで盲学校などを訪問して演奏会、交流会を行ったことに
 ついての報告と、ドボルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」を演奏、と書い
 てあった。
 生演奏?「アメリカ」?絶対行こう。
 みどりさんは、年100回の通常の演奏会を日欧米でこなす一方で、各国の学校
 や病院を訪問する演奏活動を続けている、希有な一流奏者。それにしても、
 会見で生演奏、なんて、五嶋みどりさんのサービス精神は本当にどこまで--。
 しかし、何楽章を演奏するんだろう。まさか、全4楽章、はないだろう。
 こう思いながらでかけた会見当日。みどりさんと若手3人の奏者による、ベト
 ナム訪問体験談は、「若者たちの冒険旅行」の話を聞いているようで、とて
 も面白かった。
 そして「アメリカ」の演奏が始まった。至近距離で見る(聴く、か)みどりさん
 と3人の演奏は、ど迫力。1楽章が終わったら、会場から拍手が沸き起こった。
 私と同じく誰もが、1楽章だけだろう、と思っていたのだ。
 が、4人は一端姿勢を和らげると、すぐに、2楽章を奏で始めた。
 会場にいた記者は、30分近く、「アメリカ」全楽章を、堪能したのだった。
 ありえない記者会見、だった。
 特に報道する予定の媒体をもたずに参加した、弱小フリーライター(私です)
 だって、「せめてこの日のことは、メルマガに書こう」と、動かざるを得な
 い心情になった。

 本題に戻ると、見合いサイトの「本選」で、私は不合格だった。
 2人に会ったが、それまで毎日のようにメール交換を7,8回繰り返していたに
 もかかわらず、会ったその日から、ぷつっとメールは来なくなった。
 というか、2人とも、1時間も一緒に居ずに、「では帰りましょう」「そうで
 すね」とお別れした。
 敗因は、サプライズの欠如、だったのだろう。お互いに。
 かつて書いたように、私は相当な「好条件」を相手に求め、予選審査(いやな
 言い方だな)を行った。私も、ウソにならない範囲で、自分を最大限、高く売
 るべくプレゼンした。相手も、その私を予選審査に通した、という訳だ。
 つまり、互いに期待値が高かった。会って生の自分を互いにさらすと、
 「あれ?」だった。ありていにいうと、「期待はずれ」だったのだ。

 そう考えると、書類段階での巧みすぎるプレゼンテーションは、逆効果を生
 むことがあると分かる。
 真のプレゼン巧者とは、予選のみならず本選に与える影響まで、いや違う、
 先の先まで、ものごとを見通して考えることの出来る者なのだ。
 (いやそれにしても、本選2連敗は、参った、参った!)

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