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Vol.64 バイト、パートからの立身出世物語に何を読むか



春になった。読者のみなさんの中には、新しいバイトでも始めよう、と思っ
ている人がいるだろう。

フリーターの立身出世物語といえば、牛丼の吉野家の社長、安部修仁さんだ。
安部さんは、アルバイトから社長にのしあがった人だ。
福岡の工業高校を卒業後、R&Bバンドのリーダーだった安部さんはプロを目指
して上京、吉野家でバイトを始めた。バイトは、バンドメンバーの生活費を
稼ぐためだった。
戸田顕司氏(日経ビジネス記者)が出した、安部さんについての著書「逆境
の経営学」(日経BP社)を読み、あらためて安部さんの吉野家での働きぶり
のすごさを知ったから紹介しよう。
アルバイトを始めてすぐに「社員にならないか」と持ちかけられ、入社まも
なく配属されたのが吉野家1号店の築地店だった。
(吉野家のそもそもは、築地市場の荒々しい仲買人さんたちに、猛スピード
でご飯を提供するめし屋だったのだ)
その1号店で、安部青年は、常連さん1000人それぞれの好みをすべて暗記した。
有名な「つゆだく」ほか、「ネギだく」(ねぎが一杯)、「トロ抜き」(肉
のアブラ身を除いたもの)等、大量の裏メニューが築地店にはあるのである。
店に入ってきたら顔だけみて、その人にとっての「いつもの」牛丼を出す、
という離れ業をやってのけたそうだ。
そのガッツと飄々とした人柄が人を引きつけて、創業者にもひいきにされ、
安部さんは吉野家に請われ、幹部として育てられ、社長にまで上り詰めた。

もっとも安部さんが社長になったのは、吉野家がいちど倒産してからだった。
なんとか再建を果たし、急成長を遂げた吉野家だったが、2004年の狂牛病騒
動の時には米国牛輸入停止という逆境に見舞われた。
その事態をまたしても救った。安部さんは、いわば2度、吉野家を建て直した
人なのだ。

ブックオフの社長の橋本真由美さんも、41歳で主婦パートとしてブックオフ1
号店に入り、社長に請われて社員になり、昨年ついに社長になってしまった
人だ。

つまり同じパターンの成功物語なのである。
バイト、パートという非正規雇用からキャリアをスタートして、東証1部上場
企業のトップになる。

橋本さんについては、また、別途回を改めて書くが、これまた尋常ではない
エネルギーと行動力の持ち主である。
というのは橋本さんのインタビューを私は重ねており、それをまとめた本を
もうすぐ出す。
さわりだけ披露しよう。
ブックオフに入る前、20歳の時に栄養士としてちょこっと勤めた給食会社で
は、自分の作った献立を担当工場の工員さんたちがどのくらい残しているか
を調べるため、毎日、残飯の入ったバケツに手をつっこんでいた。
べちょべちょの残飯バケツに手を突っ込んで、「今日はコロッケが残ってい
るわ。つけあわせとの相性が悪かったのかしら」と考えて、次のメニューに
活かそうとした、という。
誰に教わった訳でもなく、短大を出たばかりの女の子が、残飯に手を突っ込
むなんて。尋常の探求心の持ち主ではないと、この話を聞いたときは驚いた。
ブックオフは何度も、橋本さんによって、会社の命拾いをしている。
1号店がオギャーとうまれてから900店近い大チェーンになった今まで、橋本
さんこそはブックオフ育ての親であり、命の恩人である。

パートでもアルバイトでも、やる気があれば、社長にだってなれる。
チャンスは自分の努力でつかみとるものだ。
やる気のある人間は、バイトだってパートだって、だれかが見ていてくれる。
引っ張り上げてくれるものなのだ。
一介の農場の青年が、相場の法則を見抜いて財をなして、ボストン・レッド
ソックスのオーナーになった、なんてアメリカンドリームみたいな話が、日
本の現実にも起こり始めている。
と、そんなことを言いたくて、2人の成功者の話を出したのではない。逆だ。
福祉メルマガ読者のみなさんは、バイト、パートだってチャンスは与えられ
るのだ、という釣り広告みたいな言説を鵜呑みにしてはいけない。
パート、アルバイトで働いていても、がんばっていれば、いつか引っ張り上
げてくれる上司に巡り会うだろう、という夢物語も、安易に描くべきではな
い。

橋本さんと安部さんに共通するのは、名もなきアルバイター、パートタイマ
ーだったころから、極めてパワフルに働いていたということ。
それからその働きを、経営者が直に見てくれたということ。
さらに、ただのガンバリ屋ではなくて、人を引きつける力、まとめる力のあ
るタイプの人間だったということだ。

簡単にいうと、本人の努力(パワフルな働き)と、運に恵まれて(経営者の
そばで働いた)、素質(リーダーシップの持ち主)もあった。
この3拍子もまた、本人のがんばり次第で得られる条件ではない類のものだ。
安部さんや橋本さんといった、底辺から上り詰めたビジネスパーソンの体験
談から、若い読者が自分の現状を考えるとすれば、成功者のエネルギッシュ
ながんばりぶりに感化されるのはまず普通の読み方である。

一歩先へ進む読み手なら、こういった成功者がスタートを切った職場の、環
境の部分を読みとって欲しい。

フェアな目で自分を評価してくれる上司がいるか。
働く人を、組織のコマではなくて1人1人の人間として見て接する、
視野のある上司がいるか。
いじめがあったり裏切り行為が横行していたり、労働の場である職場で足の
引っ張り合いが起きていないか。

自分のバイト先がそれに当てはまる職場であれば、きちんと見極めるまでは
働いた上で、さっさと辞めた方がいい。
私は、バイトから社長になった人の本を読んだり、パート出身社長のインタ
ビューをすればするほど、その人たちの能力と、運の強さに打たれるばかり
だ。
「バイトさんにも社長になる可能性は開かれている」というのは優秀なバイ
トを募集したい経営者が言うことであって、バイト志願者の側は、「そんな
に甘くない」と思って挑んでほしい。

橋本さんの本は、また読者プレゼントをするので、興味のある方はお楽しみ
に。


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