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Vol.57 健康食品は好きですか?

 最近のコンビニはどこでも、サプリメントの棚が目立つところにある。
 家族にガン患者がいれば、健康食品から目が離せないもの。ガンの治癒に効
 くのかどうか、実証されているものはほとんどないらしいのだが、それでも
 「少しでも体に良いなら」と思ってしまう。一日飲まないだけで「今日を機
 に悪化したらどうしよう」などと考えるので、切らさないように、ついつ
 い多めに買い込んでしまう。
 さてガンの三大療法、外科療法、放射線療法、抗ガン剤治療でガンが治るな
 ら、健康食品に関心を持つ必要もなし。が、残念ながらそうではなく、たと
 え治療を終えてもガン患者は再発の恐怖を抱えながら生きていかなければな
 らないので、体内をガン化させないために、栄養や運動に気を遣う。
 ある女性の話である。家族がガンと闘っている彼女の食事作りは大変だ。有
 機野菜にキノコに豆腐。大量に買い込んでいるので冷蔵庫はいつもパンパン。
 何かのメソッド(玄米療法とか無塩食とか)に乗っ取ったものではないが、と
 にかく多くの素材を使おうと心がけている。医師が書いたガン関連の本を読
 んでも、たいがいはサプリメントの摂取が勧められている。調べてみると、
 勧められているものはどれもこれも高いのなんの。
 「冬虫夏草」とか「朝鮮人参」とか「レイシ」とか、一本一ヶ月分で7、8千
 円は軽くする。ガン患者向けにと書いてあるものをすべて買って飲めば、月
 に4、5万円は軽く飛ぶだろう。そうであっても、「もし今、ケチって治らな
 くなれば元も子もないし」と思ってしまう。どうも、健康食品を売る会社の
 値付けには納得がいかないのだが。
 過日はこんな「発見」をした。
 ビタミンCのサプリメントを買いたい、できれば合成ビタミンではなく天然
 の野菜や果物から作ったサプリが欲しいと思い、ネットで探してみた。たっ
 た一つ、見つけたのは、アメリカ製の、果物で作った100%天然のビタミンC
 というふれこみの商品。一瓶で約一ヶ月分、6800円なり。合成ものなら一瓶
 500円くらいで売っているのだから、この値段にはひるんでしまう。
 でも天然ものは、他にないし。2つ買うことにした。なんだか体にいいような
 気がした。一応知り合いの研究者に成分を分析してもらうと、「本当に天然
 のビタミンC。これはとてもいいよ」とのこと。「いくらしたの」と聞かれ
 たので値段を言うと、彼は黙ってしまった。品質はいい。でもビタミンCが
 6800円ってどうよ、と彼も感じたのだろう。
 試しにアメリカから直販したらどうかと思い、英語でネット検索をしてみた。
 すると検索結果に驚いたが。
 アメリカで買ったら、同じ商品が一瓶25ドルだった。3000円もしないじゃな
 いか。日本の輸入代理元は、ずいぶんなマージンを取っているわけだ。
 それにメーカーは、マルチ商法の会社だった。「友達に紹介したら、友達が
 買った分の25%があなたに入るよ」とサイトに書いてある。
 アムウェイやニュースキンの商品を「元友人」たちにどんなに勧められても、
 彼女は断固拒否してきた。売る人たちは必ず言う。「値段はするけどモノが
 いいから」と。「モノがよくても売り方がよくないとダメ」と断ってきた。
 でも、今度は事情が事情だし−−。悩む。が買ってしまうのだろう。という
 のは彼女も家族も、「本当の天然だ」とメーカーの広告を見て買った時点で、
 研究者の分析を待つまでもなく、そのサプリメントをのんで「なんだか疲れ
 にくいよね」「安いビタミンCを飲んだ時みたいにオシッコの色が汚くなら
 ないね」と、なんとなくの「効能」を感じとってしまっていたのだ。
 「食べ物とガン予防 健康情報をどう読むか」(坪野吉孝著、文春文庫)では、
 世界中の論文を精査した結果、「臨床試験でガン予防効果が十分に確認さ
 れたビタミンやミネラルのサプリメントは今のところ存在しない」という。
 文中には「トムヤンクンにガン予防効果、ラット実験で確認 京都大学など
 の共同研究で明らかに」といった科学記事が例文として出ている。よく、健
 康食品メーカーの広告に転載されているような記事である。大学名や動物実
 験の結果が出ていれば信憑性がありそうに思えるが、坪野氏によればそれは
 大きな勘違い。
(1)具体的な研究に基づいているか
(2)研究対象はヒトか
(3)学会発表か論文報告か
(4)定評ある医学専門誌に掲載された論文か
(5)研究デザインは「無作為割付臨床試験」や「前向きコホート研究」か
(6)複数の研究で支持されているか
 6段階をクリアしてようやく、この健康情報が信頼性に足るものだと考えてよ
 い、とする。
 「トムヤンクンとガン」はラット実験なので(2)で早くもバッテン。
 で、彼女の買ったビタミンCはどうかといえば、医者の研究どころか、米国
 のヒーラー(治療師)の開発したもの、なのだとか。笑ってしまうレベルのお
 話だ。
 それでも買おうとする自分がいる。客観性もへったくれもあったもんじゃな
 い。
 「これを飲み続けてもしガンが治ったら、私は『やっぱりあのビタミンCが
 よかったんだ』と思うんだろうな。で、こういう人が健康食品の広告に出て
 体験談を語っちゃう人になるんだろうな」。彼女はため息混じりに言う。成
 長中の健康食品産業。市場原理に名を借りてごっそり儲けるメーカー、そし
 て足元を見られていると分かっていても、生きたい我欲のために受け入れざ
 るを得ない患者や家族。
 コンビニに増えるサプリコーナーを見るたびに、なんとも複雑な思いに私も
 駆られる。

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