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Vol.56 不登校の子供を支える仕事
 サポート校をご存じですか。
 通信制高校の卒業を「サポートする」学校のことです。
 通信制は年数回のスクーリングとレポート提出が必須で、外に出て人と顔
 を合わせる機会は、そう求められません。だから「登校」部分はサポート校
 でフォローして、高卒の資格は通信制高校から取ろうという仕組みなのです。
 92年に最初のサポート校が登場し、今では全国に約250校あります。
 そのサポート校を5校、取材で訪ねることにしました。

 取材前、仮説を立てました。
 サポート校に通う生徒の中には、中学や高校で不登校になった人が沢山いる
 らしい。
 であればそこで教える先生は、きっと高校や中学の公教育に疑問を持ち、そ
 こでできない生徒との関わりをサポート校で実現しようとしているのではな
 いか。
 中にはきっと、カウンセラー志望者とか、自分もいじめや不登校の体験をも
 つ人とか、普通の学校の先生の志願者とは異なる動機をもつ先生がいるのでは。
 仮説はドンピシャでした。

 カウンセラー志望だった31歳の女性が先生をしていたのは、家庭教師の会社
 が運営する小規模なサポート校でした。大学の副専攻で心理学を学び、専門
 学校にも通って臨床心理士を目指していた所、サポート校の教師という職に
 出会ったとか。
 登校できない生徒の家を訪ねてなんとか連れだそうとしたり、情緒不安定に
 なっている生徒とは携帯メールの交換をしたり。
 「スクールカウンセラーをしている元同級生たちと話すと、『学校の先生の
 理解が得られない』と言っている。私の仕事はカウンセラーでもあり教師で
 もある。天職と思ってやっています」。きっぱりと、彼女は言いました。
 フリルのついたおしゃれなブラウスを着て、今時の若い子のようなメイクを
 した彼女と話す男子生徒は、なんだか照れくさそうな、まぶしそうなような
 顔をしています。生徒の心をがっちりつかんでいることが、生徒の先生への
 視線から、伝わってきました。

 元不登校の先生がいたのは、精神科クリニックが運営するサポート校でした。
 誰でも入学はできるのですが、中でも不登校や引きこもり、発達障害を抱え
 る生徒のためのサポート校として、2年前に開校した学校です。
 気分が不安定になったり、体がしんどくなったらすぐ隣のクリニックにかけ
 こめる。毎日服薬が欠かせない子のために、薬の管理も学校がしてくれます。

 サポート校はどこも、子供へのきめ細やかな配慮が特徴なのですが、中でも
 ここは極めつけ。
 「僕の頃は不登校という言葉はなくて、登校拒否だったんです」と話す先生は、
 このクリニック併設サポート校で教鞭を執っていました。
 彼はまだ20代。中学時代の教師との関係を苦に不登校になりました。その後、
 進学先に選んだ定時制高校のおおらかな雰囲気に馴染んで大学にも進み、普
 通高校や中学ではなく、「サポート校の教師になりたい」と考え教職免許を
 取ったと言います。

 ご自分の体験を生徒に話すと喜ばれるんじゃないですか。私がこう聞くと、
 彼ははっきり否定しました。
 「自分が『経験者』だからといって、自分の体験談を聞かせたりするのは押
 しつけがましくてよくない。その子なりの回復の道筋を探す手伝いをするの
 が僕の仕事。体験者だからできることって、強いて言えば、その子の辛さを
 感じ取る時に、自分の体験から想像力を働かせやすくなるくらいです」
 なるほど。先生の側にも、すでに「不登校世代」が台頭し、さらに公教育で
 はなく、サポート校という学校の周縁でその仕事をしようとする。教育の画
 一化が非難されて久しいものの、現場は確実に動き始めているのだと、実感
 しました。

 そのほか、元公立高校の教師が「公の学校ではできない教育を目指したい」
 と思ったり、小学生の受験指導をしていたものの子供が情緒不安定になって
 いく様子を目の当たりにして塾産業に嫌気したり。動機は様々ながら、この
 新しい「教育機関」に活路を見いだそうとする先生方の思いを聞くことがで
 きたのでした。

 もっともサポート校の最大の問題は、学費が高いこと。だいたい年百万円に
 通信制高校の学費が30万円程度かかります。実際に私の取材協力者である16
 歳の不登校少女は「サポート校なら通ってみたいけど、お母さんが出せる額
 じゃない」と言っていました。(彼女は母子家庭なのです)。今後は奨学金
 や教育ローンとの提携など、非富裕層の家庭の子供への対応も求めたいとこ
 ろです。

 福祉を学ぶみなさんにも、多少、関わりのある分野でしょう。
 教育の現場は今後ますます多種多彩に広がっていくはずです。
 福祉専攻のサポート校教師のニーズもあるかもしれませんね。

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