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Vol.49 人の「重荷」を引き受ける仕事

 「介護の仕事はとても気に入っていたんです。でも辞めました。引き受ける
 ものが、多すぎて」

 取材した時に出会った21歳の女の子は言いました。お年寄りの家に出かけて
 いって、家事の手伝いをしたり入浴の手伝いをしたり、人の役に立つ仕事を
 するのは、彼女の、細やかで気持ちの優しい性分にはとても合っていたとい
 います。
 けれども繊細な感性をもつ21歳の女性にとって、お年寄りの暮らしの生の現
 実に関わるのは、精神の疲労が大きすぎた。きっといつもにこやかで、人の
 話に熱心に耳を傾けてくれる彼女は、訪問者に喜ばれていたのでしょう。
 歓迎され、話しかけられ、引き留められれば引き留められるほど、彼女の負
 担は増える。

 介護職とは、いや人に接する仕事全てに言えることでしょうが、本質的にむ
 ずかしい側面を孕むものです。他人の話を聞く。それは他人の現実を、少し
 だけ、共有するということ。介護の仕事であれば、本来求められるのは、適
 切なサービスを決められた時間にきちんと提供するということです。でも人
 と人が接する以上、否が応でも発生するのが、「話に耳を傾けてあげる」と
 いう、付随的で無報酬のサービスなのです。

 カリスマ美容師ブームだった頃、原宿の元祖カリスマ美容院で、どんな美容
 師がカリスマになるのか、聞きました。経営者いわく「技術じゃありません。
 接客です」。
 女性客の身の上話、四方山話をしっかりと受け止める。気持ちよく話を盛り
 上げる。カットの技術より接客技術が、結局は、客を引きつけるという現実。
 その美容師達は、客が吐き出し、受け止めてあげた現実を、抱えきれるのだ
 ろうか。酒を飲んだり、恋人との抱擁の恍惚の時間があれば、きれいに流し
 落とせるのだろうか。

 いい友達、すてきな恋人がいればいいなあと、私は、自分が髪を切るとき、
 美容師と話しながらいつも思います。
 そう考えると、「医者が話を聞いてくれない」という、患者になったときに
 必ず抱くあの不満の背景にも、想像を及ばせることができます。
 病院へ、幾多の患者が持ち込んでくる話とは、すべてが身体の不調や心の重
 荷に関する問題です。それは美容院で話すおしゃべりよりずっと、背景が根
 深く、かなりの確率でその人の命にさえ関わってくる問題です。
 医者とて、患者の抱える問題すべてを治療できるわけではない。いや逆にほ
 とんどの問題など、治しようがないのです。
 薬が効く体の一部の問題を除けば。
 話を聞かないのは、故意か無意識的にかは分かりませんが、医者が自分を守
 ろうとする防御反応なのでしょう。自分は限られた時間、限られた問題につ
 いての治療しか、できませんよと明示するための。

 お互いが人間である以上、そして仕事という枠組みの中で「話を聞く」とい
 う付随的なサービスを引き受けている以上、仕方のないことなのでしょう。
 だから、人気のある病院、医院とは、すべからく「話をよく聞いてくれるお
 医者さん」がいる所になる。
 それだけ、心の重荷の引き受け場所を探す人が多いのです。さらに考えれば、
 引き受け場所が身近な人間関係に見つからず、サービスの提供者にそれを求
 めてしまう人が、多いのです。

 福祉の仕事を志すみなさんは、人の心の重荷を引き受ける役回りの仕事を選
 ぼうとするわけです。
 自分の重荷を一緒に引き受けてくれる誰かを、うまく見つけてほしいなと
 願っています。


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