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Vol.47 リハビリ医療の打ち切り問題について

福祉の世界をめざす読者のみなさんにも関わる問題です。
 これまでは日数制限なしで受けられた、病気や事故の後遺症のリハビリ治療に、
 日数制限がつくことになりました。
 4月からの診療報酬改定で、医療保険を使って受けられるリハビリに、病気ご
 とに日数制限が設けられたのです。たとえば脳腫瘍や脊髄の損傷などの「脳血
 管疾患」なら180日、骨折など「運動器疾患」は150日、肺炎などの「呼吸器疾
 患」は90日といった具合です。
 これが後遺症で体の不自由を抱える人にどんな影響があるのか。

 リハビリ専門病院や患者さんへの取材をする機会がありました。
 71歳、脊髄梗塞という脊髄の血管障害のため、歩行や起立が難しくなった男性
 が話をしてくれました。名刺をもらうと、会社の元社長さん。
 「今は息子があとを継いでいるんですよ」とにこやかに話すその方は、背広を
 着ていればきっと今も十分現役ビジネスマンに見えるであろう風貌の持ち主で
 した。
 けれども、着衣をまくると足にも腰にも歩行具とコルセットが。胸のあたりか
 ら下の神経が一部、麻痺しているので寝るとき以外には、装具をつけていない
 と体に負担がかかるのだとか。
 くつを脱ぐと、足の指がくしゃっとくっついています。理学療法士の若い男性
 が「足をほぐしたり、曲げ伸ばしの訓練をしないと、動きがどんどん悪くなっ
 てしまいます」と彼の症状を説明してくれました。
 しかし、この男性は発症後5年が経っています。今回の診療報酬改定では、3月
 31日以前に発症した人は4月1日発症としてカウントすることになっていますが、
 それでもまもなく医療保険でのリハビリは、制度上、打ち切りになってしまう。

 今回の「打ち切り制度」には、除外規定という、特例が設けられています。い
 くつかの病名(たとえば脳卒中など)があげられ、それに該当する病気で治療
 の効果が見込めると医師が判断した患者は、日数制限を受けることなく病院で
 のリハビリを続けられます。
 しかし、この人の場合はそれにあてはまりません。
 「これ以上よくはならないけれど、リハビリをやめると悪くなってしまう。そ
 んな患者さんがいっぱいいるのが現実なのに、制度が変わったからうち切りま
 す、と通告しなければならない」
 その病院の医師はうち明けます。
 けれども医療者として、制度を文面通り解釈すると、その網の目から落ちてし
 まうが、どうしても放っておけない患者さんもいる。
 この男性のケースは、特例として「レセプトにこういう理由でリハビリが必要
 です」と書き記し、なんとか医療保険でのリハビリを続けていこうと病院は対
 処しようと考えているそうです。
 けれども、やはり病院だって経営が成り立っていての存在です。どう考えても
 保険診療が認められないであろう患者さんには、打ち切りを伝えざるを得ない。
 「僕は、幸いにしてこれからもリハビリが受けられるようです。でもいつも顔
 を合わせている患者さんの中には、打ち切りを通告された人もいる。患者同士
 で格差が生まれて、人間関係にもヒビが入る」
 この男性はこっそり教えてくれました。

 もちろん医療保険でのリハビリ打ち切りには、それに変わる道が用意されてい
 ます。医療ではなく介護保険で、つまりある期間を超えたら福祉でのリハビリ
 に切り替えることができる、というのです。
 しかし現在のところ、福祉でのリハビリ施設は医療機関のリハビリ施設に比べ
 て、設備も、理学療法士などの人員面でも、比較にならないほど劣るところが
 ほとんどだとか。
 受け皿が育っていないのに、受け渡しの制度だけが作られてしまった。診療報
 酬の改定は、そんな現実を無視していると、有志の医師や患者団体の手で、反
 対署名運動が行われました。集まった署名数は44万人分。国民の300人に1人が
 署名した計算になります。
 日数制限の制度は、そもそもは医療費抑制を目指す国の方針の一環です。増え
 続ける医療費を、どうにかしてほしいと思う国民は少なくないでしょう。
 しかしリハビリ医療費は、医療費全体のわずか1.4%なのです。たった1.4%の
 枠から「無駄」を見つけ、削ることと、体の自由を奪われた、いわば最弱者の
 人たちの安心を確保すること。どちらが医療制度への私たちの信頼感を醸成す
 るかは、明らかでしょう。
 高齢人口は増える一方、だれだってリハビリを必要とする立場になる可能性は
 ある。
 あえてここから削らなくてもいいのではないか、というのが私の実感です。

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