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Vol.45 手相占いのウソを暴いた少女
拙著「問題少女」を読んだという17歳の少女と会いました。

 自分と主人公のレイカさんを重ねて読んだ、というその少女は、裕福な家庭の
 夫婦仲も円満な両親の元で育ったレイカとは、まったく異なる境遇にいたので
 す。
 殺人事件で母親を亡くし、酒浸りになった父親もすでにこの世を去りました。
 養護施設や里親の元を転々とする間に、精神的・身体的虐待の被害に遭い、
 いまは一人、親の遺産を使いながらマンション暮らしをしているといいます。
 兄弟のいない彼女は、わずか17歳にして、この世に身寄りがない。

 レイカに初めて会う前を思い出しました。
 自傷行為や自殺未遂や売春、といった彼女の近況を前もって聞いていたので、
 会ってかけるべきどんな言葉が自分にあるのやら、まるでわからなかった。
 しかし今回の自分は、レイカの死という、取り返しのつかない体験を経ている。
 初恋の人を探し続けるかのように、「第二のレイカ」を探してはいけない。
 まして、レイカとのつき合いで思い知った、自分の小市民的な鈍さが、底知れ
 ぬ地獄を見てきた少女にどんな影響を与えてしまうだろうかと考えあぐねまし
 た。
 しかし、それでも私は、自分の本を読み、「会いたい」と言ってくれた読者の
 顔を見たかったのです。

 新幹線に乗って会いに行きました。彼女は色の白い、小柄な高校生でした。に
 こにこと、よく笑う女の子でした。昼食を一緒に食べ、町を案内してもらいま
 した。
 彼女の近況、学校や友達や今の彼氏の話を聞きながら、半日を一緒に過ごしま
 した。

 結論からいうと、私の「心配」は、まるで的はずれなものでした。
 彼女は、本の感想を熱心に話してくれました。そして、いまも気にかかってい
 るのだと、私が話したある部分について、意見を述べました。
 「長田さんは、死ぬ前のレイカさんが最終的に頼ったのは、占いを使って彼女
 の人生を予言していたカウンセラーさんだったと書いていた。けれど、私はそ
 うじゃないと思う。レイカさんは本当は、長田さんを支えにしていた。だから、
 最後に連絡をくれたんじゃないかな。そう思う」
 私は占いとかそういうものは信じない。だってそんな根拠のないものが、私の
 人生を楽にしてくれるなんて、思えない。それが彼女の考えでした。
 その気持ちの強さに、内心驚きました。
 制服を着て夜歩くと補導されると言う彼女を、その日は送って帰ることにしま
 した。
 さあ、そろそろ駅へ向かおう。とカフェを出て歩き始めた時のことです。
 彼女が突然、言いました。
 「私、占いをしてもらいたい」
 手相占いの出店につかつかと、寄っていく。
 さっきと話が違うなあ、新幹線の時間が迫っているのにな、と思いながらも、
 彼女に従い、私は横に座りました。
 少女は千円札を初老の女性占い師に渡し、生年月日をつげ、両手を占い師に差
 し出しました。
 「私の人生を占ってください」。
 占い師は、両手をしげしげと眺め、話し始めました。
 「非常に堅実な性格の方ですね。自分のことは自分で決めて、なんでも一人で
 やってしまう」
 −−当たってるじゃない。こっそり彼女と私は目を見合わせました。
 「手に職をつけるといいですね。いまの学校は、あなたにぴったりですよ」
 −−そうなんだ。よかったね。それも当たってる。
 けれどもこのあたりは、ある程度、ほぼだれに言っても「当たっている」と思
 われること。問題はこれからでした。
 「この線を見ますとね、あなたはまだ17歳ですし、何の苦労もしていません
 ね」
 「あなたは長寿の家系です。ご両親も長生きされますよ」
 はい、そうですね。その通りです。
 彼女はニッコリ答えました。
 そして席を立った彼女は、私の方を見て言ったのです。
 「ね、長田さん。ウソばっかりでしょ」

 この私に「何の苦労もしていない」という、「両親が長寿」などという占いの
 どこに真実があるんですか。そんな占いをもとにレイカさんを判断する人を、
 レイカさんが本当に頼りにしたとは、私は思いませんよ。彼女はそう伝えたい
 がため、身銭を切ってくれたのです。
 あくまで、たった一人の読者の感想です。けれども彼女の言葉には、おそらく
 本当の苦労を体験した人にしか持ち得ない、強さと優しさがあっのです。
 占いの正否やら、レイカを診ていたカウンセラーの姿勢、といった問題はどう
 でもいいのです。彼女の、このさり気ない気遣い。目の前にいる17歳の少女に、
 してやられたと痛感しました。

 帰りの新幹線で、考えました。読者はすごい、と。実際に、実名でもらう手紙
 やメールには、筆者の意図をはるかに越えた、レイカへの労りや自分の心情を
 綴る言葉があふれているのです。

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