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Vol.42 生き物は、愛すると愛してくれるのです

  天才的にかしこく、かわいいウサギを飼い始めたのだという話を、以前に書
 きました。
 ウサギのウサがうちに来て以来、つい、ペットに耽溺する作家の文章が気に
 なるように。ネコ派、イヌ派とそれぞれが、動物との暮らしを綴っています。
 中でも、大阪版毎日新聞のコラムで関西の人気者になった歌人の寒川猫持が、
 愛猫にゃん吉の死を詠んだ歌は、氏の最高傑作といってよい。

 赤い日が仏陀よ海に落ちました わたしの猫が今死にました

 ペットというカタカナ言葉の軽さ、軽侮感を超えた、「わたしの猫」という言
 葉の重さ。ものをしゃべるわけでもない、ただ自分の傍に生きる小動物との交
 歓に、どうして人は魂を吸い取られたかのようになってしまうのか。
 ウサギを飼って、初めて腑に落ちました。
 
 さて読者の皆さんへのプレゼントでも御案内した拙著「問題少女」の刊行祝い
 だと、北海道へ3泊4日の小旅行へ行くことにしました。
 困るのはウサです。ウサを放置するのは1泊2日が限度、3泊ともなればペット
 ホテルに預けるか、誰かに頼むかしかありません。
 飼い主としては、吠えたり泣いたりする犬猫と同居するペットホテルではさ
 ぞストレスもたまろうと心配です。
 さりとてわがウサは、トイレ砂の交換1日2回、室内散歩1日1時間、牧草とラ
 ビットフードの補充1日2回、と何かと手間がかかる。
 頼めるとなれば、動物が心底好き、かつ自分ではペットを飼っていない人、
 と縛りがあります。
 おまけに「天才ウサギ」と書いてまもなく、めっきは剥がれだしたのです。
 「おいで」といっても、来なくなりました。
 抱きかかえようとすれば、猛ダッシュで腕をすり抜けます。
 「ダメ」と言っても、私の目を盗んで古い皮のソファーをかじり、穴をいくつ
 もあけました。 祖母からもらった大事なものなのに。
 「この、クソウサギめ!」
 大声をあげ、箒を持って、テレビの後ろに逃げ込むウサを追い立てます。
 顔からお尻から、棕櫚(シュロ)ボウキの粗い毛を、やわらかなウサギファー
 にぐいぐい押し付ける私。掃きだされまいと、必死に踏ん張って、床にしが
 みつくウサ。
 そんなこんなを日々続けるうちに、ウサはなんとかこちらの裏を掻こうと悪
 知恵をつけ、「かわいく賢い」面影はどこへやら、すっかり「ズルく憎らし
 いウサギ」へと変貌を遂げてしまいました。
 こんなウサギを預かってくれる人、いるんだろうか。
 熟考の末、共稼ぎで夜勤生活をする夫婦にお願いしました。
 イヌを飼いたいけどマンションではペット禁止なのでと諦めていたという2人
 です。
 4泊5日でウサを預け、5日目の夜に取りに行きました。
 
 さて帰宅の翌日。気づきました。
 ウサは、もう元のウサではなくなっていたのです。まさに別ウサギ。目を疑
 いました。
 旅行期間中、「かなり我が家に慣れてきました」「パイナップルがお気に入
 りです」と写真付きで報告メールを何度ももらっていました。可愛がっても
 らっているのだと、安心はしていました。
 けれども突然、まるで違う家に放り込まれたのです。ウサギとはいえ、なぜ
 ボクはここにいるの、あの飼い主はどこへ行ったの、この状態でボクはこれ
 から暮らしていくのと、疑問をもつはず。人間不信になって当然です。
 しかし。お泊りを体験したウサは、生まれ変わったかのように「いい子」に
 なっていたのです。
 「おいで」といえば、飛んでくる。ケージから出すと、なでて、なでてと擦
 り寄ってきます。
 何があったのか。彼らの報告と、経過メールから考えました。
 彼らは5日間、ウサを大事に大事に、扱ってくれました。悪さをしたって、頭
 を押さえつけたりはしない。箒で掃き出すなんてもってのほか。
 観葉植物をかじられれば鉢を別の部屋へ移す。
 隅に入り込めば、パイナップルを見せてやさしくおびき寄せる。
 1日何度も、何時間も、ケージからウサを放してやる。
 どうやらウサは、たっぷりの愛情を注がれた末に、素直ないい子に変わって
 しまった。こう考えるほかないと、思い至りました。
 なるほど彼らと同じく、テレビの裏に入り込むウサにパインの袋を見せれば、
 それだけでウサはぴょーんと飛び出してくる。無理せず、捕獲してケージに戻
 せます。
 
 力で押さえつけられたり、ダメダメと罵声を浴びさせられたりが、ウサにとっ
 ていかにストレスだったのか。それが彼を「憎らしいウサギ」に変えてしまっ
 ていたのか。
 
 反省しました。まるで子育てをする母親のようです。こうして思ったのです。
 生き物を飼うとは、感情の交換なのだと。
 一方的な「世話してやる」「飼ってやる」じゃないんだと。
 相手が犬猫ほど高度な知能はもたないウサギでも、愛してやれば愛し返して
 くれる。それが生き物と暮らすということなのか、と。
 
 高齢者のペットには小動物がお勧めという記事を読んだと書きましたが、高齢
 者のみならずメルマガ読者に多いであろう「若者」「ペット禁止マンション」
 に住む人にも、こっそり飼えるウサギはお勧めです。
 
 心から。


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