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Vol.36 家族の痛みと「緩和ケア」


 福祉の学生さんなら、御存知だったでしょうか。

 正月にNHKで「ガンの痛みと緩和ケア」をテーマにして、患者やその家族
 と医師、厚生労働省の官僚らが話し合う討論番組がありました。
 私も家族にガン患者がいます。
 でも恥ずかしながら、「緩和ケア」について何も知らなかったのです。

 ホスピスの存在は、日本でもかなり認知されてきました。
 けれども日本の現状では、治るかもしれない段階では痛みの治療はなく、
 手術だ抗がん剤だと、患部を取る、叩くための治療一辺倒。
 そして、もうこれはダメだ、諦めるしかないという段階になってようやく、
 ホスピスだ、緩和ケアだという話になる。

 緩和ケアとは死期の近づいた患者のためのものだと、私も思っていました。
 ところが欧州においては、緩和ケアは、ガンと診断された瞬間から、根治的
 治療と並行して行うものなのだといいます。
 痛みを取り除くため、初期なら頭痛薬に使われるような成分の鎮痛剤、
 それから段階を追ってモルヒネへ。
 それらの副作用を抑えるため、鎮痛補助薬と呼ばれる補助的な薬を組み合わ
 せると、かなりの部分、痛みはコントロールできるのだと、専門医は話して
 いました。
 「担当医は痛みのケアなど念頭になく、いかに治療するかの一辺倒」
 「痛みが日常生活を苦痛なものにする、それが医師には伝わらない」
 という患者の声、
 「痛みを抑えられれば、患者さんは次の治療への意欲も取り戻すことができる」
 という緩和ケア専門医の意見が番組では飛び交っていました。
 目を見開かされる思いでした。

 さてメルマガ読者のみなさんがガンと向き合うのは、在宅のガン患者や介護
 をする家族の方々ということになるのでしょう。
 在宅で、介護を頼むということであれば、おそらく患者さんは終末期。
 介護職の方が直接、やり取りをするのは患者より家族の方が多いと思います。
 ガンは患者の痛みも辛いが、家族も精神的にまた辛い。
 よく聞く話ですが、これは実感として、よく分かります。
 家族の辛さには、痛がる家族の姿を見るのももちろんですが、他人から心無
 い言葉をかけられるという、あまり語られていない一面があります。
 他人の言葉が辛いのは、それが多くの場合、言葉をかけた本人は「心無い」
 とはまるで認識していないこと。
 「私の親戚は、ヘルストロン治療で治った」
 「友達が、脳幹を正常にする石で治った」
 「アガリクスで腫瘍は小さくなるらしい」
 だから試してみなさいよ、と勧めてくる人がいかに多いか。
 
 五万とある民間療法が、みなウソだと言うのではありません。
 治った人は、それぞれにいるのでしょう。
 その人にとっては治癒は真実の物語であり、語るべき奇跡であり、それを人
 に勧めたくなるのはもっともな事です。
 人が心からいいと思っているものの導入を断るのは、イヤなものです。
 けれどもよりイヤなのは、断ったときに相手から返ってくる言葉です。
 「どうせダメなら、ものはためしと思ってやってみればいいのに」
 「命に比べればお金なんて、たいした問題じゃないのに」
 大きなお世話ですね。ガンを無治療のまま過ごす人などいない。
 みな、何らかの治療法に、祈るような気持ちで頼っているのです。
 こういった他人の介入に、家族は辟易しています。
 家族の気持ちの痛みは、介入されるよりそっと見守ってもらうほうが、ずっ
 と癒されるのに。
 介護職の方の重要な役割は、家族の気持ちへの「緩和ケア」なのではないで
 しょうか。


     

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