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Vol.32 「心を売る」瞬間とは

ファミレスやチェーンのコーヒーショップで、なぜ、「コーヒーフレッシュ」
が取り放題なのか、不思議に思ったことはありませんか。
サービスいいなあ、って?いやいや相手も商売、”出血サービス”には裏があ
る。

コーヒーフレッシュとは、牛乳から作った生クリームだと思っていたのは、私
だけではないでしょう。ところが、コーヒーフレッシュの正体は、「ミルク風
サラダ油」。植物油に界面活性剤(乳化剤)を使って水を混ぜ、とろみをつけ
る「増粘多糖剤」を混ぜ、クリームの香りのする「香料」を入れ・・・と添加
物をたくさん混ぜて作られているというのです。

なんと。食品添加物の元トップセールスマンである安部司氏の著書「食品の裏
側」(東洋経済新報社)に、こんな食品添加物の”裏”事情が詳しく載ってい
ます。

なぜ福祉のメルマガに食品添加物の話か。

安部氏は食品添加物商社の営業マンとして、伝統製法にこだわっていた豆腐屋
さん、かまぼこ屋さん、うどん屋さんなど食品加工の職人さんたちに、添加物
の便利さを説き、自分の商品を売り込みます。商談成立のその瞬間のことを、
「心を売る」と表現していたのが気にかかったからなのです。

手打ち麺の職人が育たない、と嘆くうどん屋さんには、グルテンを使えばコシ
がでてつるつるした麺ができますよ、ほかにもこうした添加物を入れれば、パ
ートのおばちゃんでも簡単に「しこしこ麺」ができますよ、と提案。つゆも、
だしなど取らなくても、添加物を混ぜた液を薄めるだけでいいですよと。

次々に提案される便利さの魅力につられ、うどん屋のご主人は、添加物に心を
売ってしまった。

こうして安部氏は、加工業者にどんどん食い込んでいきます。黒ずんだレンコ
ンは真っ白に、どろどろのタラコはぷりぷりに。工業技術の産物、添加物は大
量生産が可能です。だから昔ながらの塩を使ったり、だしやみりんで味付けす
るよりずっと、製造コストを安く抑えられる。

「そんな辛い仕事は息子さんが継ぎませんよ」の一言で、添加物の採用をきめ
た職人もいた。
食品業者は安く簡単に商品を作れるんだし、それで消費者も喜ぶんだからいい
のだ。と安部氏は仕事にまい進していました。

が、転機が訪れます。あるとき自宅で、愛娘がミートボールを口にしようとし
ていました。それは安部氏が、くず肉に添加物をたっぷり混ぜ、添加物でケチ
ャップ味風のソースを作って商品にした、激安ミートボールでした。

それは食べさせるな、と妻にストップをかけた安部氏。そのときはじめて、自
分の家族に食べさせたくない商品を俺は作っていたのか、と自分の行為を振り
返ったのです。

俺の仕事はなんだったのかと。

さて話は変わります。過日、祖母と同居する友人と話していた時のこと。
その友人は、祖母のボケがひどくなって困る、とこんな例を挙げました。

「テーブルに柿が置いてあると、それをみたおばあさんは、『これは誰にもら
った柿か』と聞く。『となりの田中さんだよ』と私が答える。3分後にまた、
『これは誰にもらった柿か』と聞く。同じ答えの繰り返し。あまりに続くと、
私はもう、無視。するとこんどは夫に『誰にもらった柿か』。みんな3回でも
う、うんざり。でも無視したり、怒ったりするのは、認知症の老人への対応策
としてはバツなんだって」

それが毎日か。ぞっとするねえ、とため息をつきました。すると別の友人いわ
く「ロボットがいればいいね。何回でも『それは田中さんがくれた柿だよ』っ
て答えてくれるロボット。明るく答えたり、面白そうに答えたり、バリエーシ
ョンを持たせて何度でも対応してくれるのがいれば」
ははは、それはいい。と言った瞬間、どこか薄ら寒い空気が走りました。

こういうの「心を売る」というのかな、と誰かが一言。
そうかもしれない。でも実際にあったら、私だって頼ってしまうかも。この思
いはぬぐいきれませんでした。

食品添加物の本を読んで、そんな会話を思い出したのです。
添加物がはびこってきた背景には、製造現場の苦労の解消という利点があった。
おまけに安く作れれば消費者にも利益がある。一概に「悪」とは決め付けられ
ません。

でも使用量を制限しているとはいえ、毒性が証明されている添加物を、知らず
のうちに大量に摂取しつづける食生活を当たり前としている私たちの今って、
これでいいのか。便利さに「心を売る」状態を、肯定していいのか。

福祉の現場にこれから入るみなさんにとって、便利さと人間らしさのトレード
オフの問題とは、何かと、課題として立ちはだかってくることなのでしょう。

     

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