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Vol.31 本気で怒るべき時とは。

最近、怒ったことがありますか?
メルマガ読者の中には、
学生さんも多くいると思いますが、
社会人になれば、怒りの多くは
仕事に関する出来事に変わります。

仕事を遂行する上での人間関係には、秩序が必ず生じます。
「力関係」です。
買う側と売る側なら、売る側は買う側に頭を下げなければならない。
上司と部下は、当たり前ですが上司に従う。
低頭する側にとっては理不尽な命令であっても、
それを拒否すると秩序が乱れ、流れるはずの業務が流れなくなってしまう。

ところが、その力関係が変わる瞬間があるのです。
これまでずっと、しぶしぶ従っていた慣習に、
「どうしてもノーだ」と怒り出す人が現れる時。

「スター誕生」というテレビ番組があったのを、ご存知でしょうか。
小泉今日子、中森明菜をはじめ、ピンク・レディー、山口百恵、
森昌子といった70年代−80年代のスターを輩出した、
オーディション番組です。
素人応募者だった彼女たちの個性を見抜き、芸能界に送り出す。
これがどうして成功したかというと、
やはり、テレビ局のある社員の反乱が発端だったのです。

それまでの芸能界といえば、巨大事務所、
渡辺プロダクション(ナベプロ)が
タレントの供給をほとんど牛耳っていました。
そればかりかテレビ局から制作費をもらい、
自社のタレントを中心にした番組制作まで、
ナベプロが行っていたのです。
テレビ局としても、ナベプロの人気タレント
(天地真理や小柳ルミ子、沢田研二など)を
優先的に出してもらえるし、番組制作は楽だし、
これはいいやということで、ナベプロに局としての根幹の
かなりの部分を、握られていました。

それに異を唱えたのは、
日本テレビの制作局次長の井原高忠という人。
ナベプロが今のテレビ朝日と組んで企画していた音楽番組の時間帯が、
日本テレビの既存の音楽番組と重なってしまった。
日テレの担当者が慌ててナベプロに、
何とかしてほしいと頭を下げに言ったとき、
ナベプロの社長は言いました。

「そんなにウチのタレントがほしいんなら、放送日を変えたら?」

この一言を伝え聞いた日テレの井原氏、
溜め込んできたナベプロ支配への怒りが噴出しました。
おかしい、全面戦争だ。
ナベプロのタレントなしで、ウチは番組を作ろうじゃないか。
実際にはナベプロのタレントが出ない番組など、
当時は想像を絶することだった。
今で言う、ジャニーズ事務所の比ではないのです。

テレ朝の音楽番組とかちあった番組には、
ナベプロ以外の芸能事務所に協力してもらう。
そのかわり、「スター誕生」で生まれたスターを、
優先的に配分する、と条件をつけました。

こうしてナベプロとそれ以外の事務所の差は徐々に縮まった。
井原氏に言わせれば、「じゃ、曜日変えればいいじゃないか」と言った
ナベプロ社長の一言が、怒りに火をつけ、ナベプロの衰亡を招いた。
ナベプロなしの番組作りという逆境を乗り越えたとき、
支配者は覆り、時代が変わったのです。

仕事における力関係は、通常、覆せるものではありません。
けれどもその関係が矛盾をはらんだものであれば、
いつか、均衡は崩さなければならない。
でなければ働く人々の士気が下がり、精神がよどんでしまいます。

本気で怒るべき時とはどんな時なのか。
井原氏の体験談は軍司貞則著「ナベプロ帝国の興亡」(文春文庫)や
本人の著書に記されています。
おそらく職場の怒りとは、日常的に吐き出すものではなく、
本当に必要な変革を起こしたい時、
それをより効果的にするためにしまっておくものなのでしょう。

     

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