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Vol.28 人を大事にする人の仕事とは
福祉の仕事を志す読者の皆さんの多くは、仕事を選ぶ際の価値基準を、
収入の多寡より別の何かに置くタイプの人間ではないでしょうか。
乱暴を承知で世の仕事を「華やかな仕事」か「地味な仕事」かに二分するならば、
福祉の仕事のほとんどは、地味な部類に入るものでしょう。

ではその対極である「華やかな仕事」とは? 単純に思いつくところでいえば、芸能界。
今、わたしは芸能界に関する仕事をしています。
といっても過去の芸能人がメディアでどのように扱われてきたかを調べる、
といった作業なのですが。
痛感するのは、芸能人とは人でありながら生鮮品であるという現実です。
生ものですから、「走り」があれば「旬」もあり、朽ちかけていく時期もあるのです。
たとえば70年代に、今でいう巨乳ブームの先駆けとなった、ある女性タレントの場合。

デビューしたばかりの「走り」の時期に、彼女の顔写真は、
20人の新人タレントがカタログのように並べられた記事「最新CM美女たち」の一角に、
ちょこんと載っていました。
ところが4ヶ月後。CMで大ブレイクした彼女は、
「学校では教えてくれない○○の全て」「独占2時間密着インタビュー」
等々、週刊平凡、週刊明星といった芸能週刊誌、男性誌、一般週刊誌、
新聞社系週刊誌などありとあらゆる雑誌に、載りまくっていたのでした。

これぞ「旬」の時期でした。

けれども、彼女の旬はあまりに短かった。
もし彼女が、タレントとしての彼女を大切に扱うマネージャーと出会っていたら、
彼女のその後は違ったものだったでしょう。

旬は誰だって短い。
それを成熟という形で変質させ、生きながらえさせるのが戦略の力です。
戦略というより、むしろ人を扱う仕事である以上不可欠な、
愛情から生じる知恵というものでしょう。

3年後の彼女を報じる、驚くべきグラビア記事に出会いました。
千葉県にある某健康センターで、アマチュアカメラマン300人が集う水着撮影会に、
彼女がやってきた、と報じられていたのです。

デビュー当時は篠山紀信ら超一流のカメラマンに撮られていたトップアイドルが、
たった3年後には、プロ顔負けの超望遠レンズを背負った日曜カメラマンたちの
円の真ん中で、にこにこしながらビキニ姿を披露、とは。

旬の時期と変わらぬ笑顔を振りまく元トップアイドルが、白黒ページに載っていました。
そのグラビア記事の主役は、出で立ちもさまざまなおじさんアマチュアカメラマンの
姿であり、記事の趣旨は、往年のトップアイドルがいまやこんな輩に、
との一点にあるのでした。
 
さて当時の彼女のマネージャーをよく知る、ある芸能プロダクションの社長に、
私はインタビューする機会を得ました。
その社長は小さな声で、言いました。

「彼女のマネージャーは、彼女の人気は1年だと見限っていたみたいですね」 

つまり人気絶頂の時、マネージャーは冷徹にも「これは一時的なものだ」と判断。
稼げるうちに稼いでおこうと、仕事を選ばず彼女を露出させていた。
その結果、彼女は短命に終わり、タレントとしての末期には、カメラ小僧の撮影会の
仕事まで引き受ける羽目になったのでは、との話でした。

インタビューを受けてくれた芸能プロの社長はといえば、まるで反対の姿勢で
マネジメントをすることで、知られる人です。

有名俳優も抱えていますが、数人のタレントとスタッフで営んでいる小さな事務所です。
社長は所属タレントのもらってきた台本に全て目を通し、一つ一つの演技に意見を言い、
稽古をつけて、育て上げてきたといいます。
テレビなら撮影現場に顔を出し、衣装一つ、カメラのカット一つにまで、
制作スタッフに口を出す。彼のイメージにそれは合わない、
こういう服の方が映えるのではないか、と。

ある時、その社長の所属俳優に、大きなCMの話が来たそうです。
介護用品のCMで出演料は1億円超。
指名を受けた俳優は、名の知れた二枚目役者です。
でも彼とて出演料1億円はやはり大きい。 

しかし社長は、その仕事を断ったのです。
1億円はたしかにありがたい。
でも介護用品のCMを一旦引き受ければ、二枚目の彼のイメージに後々にまで
影響するだろう。
これから恋愛のドラマだってするだろう、その時に「若さ」のイメージを
視聴者に持ってもらえない役者に彼をしてしまってはいけない、と。

華やかな仕事とは、人間同士のつながりといった情緒的な価値よりも、
金銭、契約といった合理的な価値に重きを置く世界だろうと私は想像していました。

たしかに元トップアイドルのマネージャーはそのような人だった。
けれどもそうではない価値観をもつ人も、同じ世界にあっても存在するのです。
目先の利益に囚われず、その人本人の総合的な利益のために決断する。
そんな人がいると知って、嬉しくなりました。

福祉の仕事を選ぶ皆さんには、「人と人とのつながりこそを大切に」なんて、
釈迦に説法でしょう。
ただ、つい書き残しておきたくなった、最近の取材での一こまでした。
 

     

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