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Vol.22 突然の来訪者
土曜の昼前、のんびりと本を読んでいると玄関の呼び鈴がなりました。

出てみるとそこにいたのは、小学校、中学校の同級生ミキとユミ。

その顔ぶれで、来訪の目的はすぐ分かったのですがそれはさておいて。
彼女ら2人はなんと故郷から新幹線に乗って4時間、
わざわざ私を訪ねてきたと言います。

一瞬たじろぎましたが、ひしと手を握りあいました。
キタナイ家だけど20年ぶりに友が尋ねてきたんだから仕方ない。
まあまあ入ってよ、と上がってもらうことに。

仲良し4人組のうち3人が突然、集まったのです。話し始めると、
中学時代の記憶が生き生きと、映像のように立ち上がってきました。

「私とユキがさあ」。ミキによると、その場にいないもう一人の仲間、
ユキとミキは授業を抜けて、駅前の美容院へ髪を切りに行きました。

ミキは「薬師丸ひろ子みたいに」、ユキは「松田聖子みたいに」。
こう注文をしたそうです。

時代を感じますね。当メルマガ読者の皆さんにはピント外れかも知れません。
でもこの2人、当時の中学生にとっては大変な憧れの存在だったのです。

ふんわりカールさせた髪の毛で、2人は中学校へと戻りました。

ところがよりによってその日、生活指導担当の女教師が、
PTAのお母さん方を相手に最近の生徒について状況報告をしていました。
ミキのお母さんはPTAの副会長。
当然ながらしっかりとその場に居合わせました。

2人を見つけた女教師は、ミキのできたての薬師丸ひろ子カットを
ぐわしとつかみ、仁王立ちで叫びました。

「お母ちゃん、見てみぃ!これがあんたの娘のしてることやでぇ」

そしてビシ、ビシ、往復ビンタ。

痛かったわあ。ミキは懐かしそうに振り返り、
でも、表情を変えてこう付け加えました。

「今だったらあんな暴力振るったら、PTAがまず文句言うだろうね」

その通りでしょう。

私たちが中学生だった1980年代の初頭は、校内暴力全盛期でした。
また管理教育の全盛期でもありました。

ご多分にもれず私たちの中学校も荒れていて、でも教師陣はそれに負けじと
高圧的でした。スカートの丈が短い、髪の毛が眉毛にかかっている、といった
些細な校則違反が見つかると、即座にビンタが飛ぶ。これが日常だったのです。

それにしてもなぜわざわざ授業中に、髪の毛を切りにいったのか。
訳もなく厳しい校則にとにかく反発したかったのです。反発する側も必死、
また押さえつける教師の側も必死でした。

40を前にした私たちは、もう当時の教師の年齢です。そういえばあのころ、
先生もおかしかったよねと教師の話題になりました。

たとえばユミと私の記憶では、とても優しくて熱血教師だったある男性教師。
でもミキは「いや違う」と首を振りました。

「クラスでやんちゃだったナカガワ君っていたじゃない。あの先生、
ナカガワ君をボコボコに殴って、ナカガワ君は顔がもうふくれあがってたのに、
まだ頭をつかんで黒板にガーン、ガーンって何度も叩きつけてたの、
覚えてない? 
ナカガワ君は鼻血をだらだら流しているのに、止めずに何回も何回もやってたよ」

当時、その先生は30歳前後でした。体罰当たり前の時代とはいえ、
そんな大人が少年に振るう暴力としては、どう考えても行き過ぎです。

暴力とくれば、次は女。

すごく威張っていて大嫌いだった副担任の若い男性教師は、私たちの卒業から
数年後、遠足の時に突然、同僚の女教師と失踪したそうです。

そして担任の男性教師は、学校の傍でド派手な女といちゃいちゃ歩いていたと
地域では噂になっていたとか。

先生たちも大人の悩みや鬱憤を抱えていたんだろうなあ。
あのころは分からなかったけど。

3人の断片を持ち寄った思い出談義は、こんな結論に達しました。

さて2人は午後5時の新幹線に乗って、子供の待つ家へ帰らなければなりません。
ミキとユミは小学生の子を持つ母です。半日間だけ中学生に戻った私たちは、
その日の夜には、それぞれの現実へときちんと着地しなくてはならないのです。

別れ際。ミキとユキは、しっかりと来訪の目的を私に向かって告げました。

「7月に都議会選挙、あるでしょ」

分かってました。2人は信仰する宗教団体が支持する候補の応援を頼みに来た
のでした。自費で、わざわざ新幹線に乗って、アポ無しで。

考えてみると常識的な行動とはいえません。

なぜ、せめてその日の朝にでも電話一本くれなかったのか。ちらと思いました。
忙しいだろうから居なかったら居ないでしょうがないと思ったから、
と彼女らは言います。

でも。来訪の目的を事前に告げたら、私は断っていたでしょう。
ではやはり「アポ無し」は、故意だったのか。

私たちは私たちで、大人の事情を抱えながら生きている年になったのです。
八重洲口で手を振りながら、すこし複雑な気持ちになりました。


     

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