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Vol.20 具体的に「人の支え」になるとは
福祉メルマガの読者のみなさんを羨ましく思った出来事がありました。

取材協力者の一人が突然なくなりました。享年32歳。うつ病をきっかけに薬物依存となり、昨年発作を起こしてからは体の自由が利かなくなった青年でした。彼は自ら人生に幕を下ろしました・・・

どうにも体がよくならないから東京のお医者さんを紹介してほしい。お母さんへの言づてという形で彼が連絡をよこしたのが今年の3月。関西から家族が車で連れてきた彼を、お医者さんに紹介するため付きそいました。それが顔を見た最後でした。

かれこれ6年のつきあいでした。なぜ彼が負のスパイラルに巻き込まれていったのか、彼の状況において他の可能性はなかったのか。彼を思うたびに考え続けてきた6年越しのこの問いを、もう一度、反芻せざるを得ませんでした。

出会いはうつ病の取材でした。精神科で出された薬が効かなかった彼は、日本未認可の薬ほしさに自分で並行輸入をしていました。

人見知りの激しい彼が私と付き合おうとしたのは、ライターだから薬の新情報に詳しいはずだと誤解したからです。電話では開口一番、「長田さん、新しい薬知りません?」

そのたびに口論です。

一発で治る夢の薬なんてないんだよ。薬をころころ変えるより、一人の信頼できるお医者さんを探しなよ!

「うつ病になったことのない人にはうつの苦しさは分からない」ガチャン。

私たちの電話の定型パターンでした。

それでも彼の家で元気だったころの写真を見たり、高校時代のバンドで彼の作った曲を演奏したテープを聴かせてもらったりしているうちに、なんとなく、通じ合えた感じが双方の間に生じてきたのです。

元気な時代の彼の「証拠」は、今との落差をまざまざと伝えます。外に出たくない理由がよく分かりました。彼は彼で、自分の話に耳を傾けようとする人間と何らかの形でつながっていたかったのでしょう。

少しずつ、雑談ができるようになりました。身体障害を負ってからも「小さなことからコツコツと、って西川きよしも言うてますし」と冗談をいいながら、リハビリへの意欲を見せていりました。

けれども−−。

さて彼の人生に別の可能性があり得たのかという自問自答への、一つの答えとして、私はあるテレビ番組を思い出しました。

人の死を巡る問題にバラエティ番組とは不謹慎と思われるかも知れません。が、それは関西の長寿番組「探偵!ナイトスクープ」が04年9月3日に放映した「おもらしを治してほしい」という企画でした。

一人の青年が人前でおもらしをしてしまいました。それ以来、彼は頭からいつも尿意が離れず、外に出られなくなった。精神科に何軒かかっても治らない。誰かどうにかしてほしい。こんな依頼を青年が番組に寄せました。

「探偵」は桂小枝氏でした。少しずつ外に居る距離と時間を伸ばしていこう。探偵は青年に付き添って、散歩に出かけました。夕方まで2人の挑戦は続きました。

結末は驚くべきものでした。その日のうちに彼は、頻尿を克服したのです。

どんな医療をもっても克服できなかった尿意への恐怖。たった一日、他人が傍で支えたという行為が、彼の症状に決定的に作用したのです。

これは特異な偶然で、テレビ撮影という特殊な場面だから起きた奇跡なのだと言われればそれまでです。けれどもおそらく、いつも傍にいる家族にはできない仕事です。

小枝探偵は、甘えとなれ合いを排除して、毅然と青年に向かい合っていました。他人であるからできる具体的な支えとはこういうことなのでしょう。

もし亡くなった彼に、私のように言葉で介入するだけではなく、傍で一緒に「治る」ための行動を支えてくれる真摯な他人がいたらどうだったろうか。

彼の死について考えながら、この番組を思い出しました。福祉を志す読者のみなさんは、そういった役割を担う可能性のある仕事にこの先、就く。たいへんな、たいへんな仕事だなと、顔も知らない読者の皆さんの存在を想像しました。

     

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