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Vol.18 一緒に食事を!
「うちの会社には、お茶やコーヒーの自動販売機は置かないことにしています」

取材の最中に、下町にある老舗企業の50代の社長さんは言いました。お茶くみから 女性を解放しようとばかり、今ほとんどの大企業では、飲み物は自動販売機かサー バーで供給しています。役員室へのお客さんでもないかぎり、来客にだって紙コッ プのコーヒーか、ペットボトルをそのまま出す企業の方が多いかもしれません。

けれども思いました。その会社の女性社員、いやだろうなあと。

しかし社長は、これは確固たる持論なのだと言います。急須で煎れるお茶は「同じ 釜の飯」につながるんだ、つまり同じ物を飲み食いすることによって「気心が知れる」のだ、と。

「昔は、うちの会社でも社員は同じ釜の飯を食ってましたよ。お袋がおひつに二つご飯を入れて、社員はずらっと横に並んでお新香とおみおつけで朝ご飯を食べるん です。今はそこまではできないけれど、せめてお茶ぐらい、みんなで同じお茶を飲 もうやと私は思うんです。一人一人が好き勝手に、ペットボトルで飲むんじゃなくてね」

たかがお茶ぐらい何で飲んだっていいのにと思うのは、「同じ釜の飯」が人間関係の醸成に果たす効用を知らない世代なのでしょう。しかしこの話で面白かったのは、 老舗の社長が昔の家族的風習を懐かしんで復活させた、というところではありません。

彼が「同じ釜の飯」の大切さを改めて考えたきっかけは、ある外国人社長との会話にあったというのです。

旧態依然とした日本企業のトップに指名され、大改革を成し遂げている40代の外国人社長とその老舗社長は、とある縁で出逢いました。

話をしているうちに、外国人社長が日本人社員とのコミュニケーションを測るために「ランチミーティング」をしている、と聞きました。一緒にサンドウィッチを食べながら、仕事の問題点や日常生活のこと、行内の出来事などを話すのだと、外国人経営者は老舗社長に教えてくれました。

それは「同じ釜の飯」だ、昔、我々がやっていた事と同じだ。老舗社長は驚きまし た。日本企業では「古い」「社員が疲れてしまう」と唾棄されてきた、家族主義的な社風作りのための実践を、外国人をトップに抱く企業が率先して行っている。これを聞いて、この男は人の動かし方を知っている、と一目を置いたのだとか。

学生である当メルマガ読者のみなさんは、

「それは年配の人、トップの人の考えで、若い社員は嫌がっているんじゃないの」と思うかもしれません。

嫌なときもあるでしょう。けれども意外なことに、社会人へのアンケートをみれば、 「飲みニケーション」(ってすごい言葉ですがアンケートの設問で使われているのでお許しを)の効用と必要性を認めている人は、多数派でした。

日経ベンチャー05年3月号では、中小企業に勤める20代−30代社員の86%が「飲み ニケーション」は「絶対に必要」「ある程度必要」と答えています。

けれども現実には、「飲みに行く頻度」を聞くと回答者の40%もの人が「ゼロ」と答えているのです。

大半の人が必要性を認めているのに、4割の人にはその機会すらない。

勘のいい経営者は、人間関係が密着しすぎていたかつての企業風土を、ただ懐かしがる気持ちで、「飲み食いを共に」と言っている訳ではないのです。必要最低限のコミュニケーションの機会さえ、もはや会社は供給できていないじゃないか。 おそらくこんな危機感を抱いているのです。

人間は業務遂行ロボットではなく、仕事をしながらも感情から己を切り離せない存在です。感情がほつれたら、繕ったり埋め合わせたりする作業が必要になる。家族や社外の友人との付き合いもその機能を果たしますが、職場で起きた出来事については、事情を知るもの同士で話ができればそれに越したことはありません。

老舗社長の着眼点、さすが何代も続くのれんを守ってきた人の勘だなあと感心しました。
     

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