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Vol.15 いくつになっても新しい友達はできる
前回に続き「韓流」ブームの話題です。私の周囲に四天王の一人、
イ・ビョンホン の「おっかけ」がいます。
ある時彼女が何気なく漏らした一言に、度肝を抜かれました。

「チェ・ジウとビョンホンが付き合っているって言われているけど、
私らファンが見れば、あの2人は絶対にないって、分かるわ」

絶対ないって、何を根拠に?

大スターを一般のファンが、それも異国のファンが目にするのは
テレビや映画やファンとの交流会など、
限定された「公」の場の姿だけでしょ。
彼らは演技のプロなんだから、
いくらでも男女の仲ぐらい取り繕えるでしょう。

何を言い出すかとあきれ顔をする私を尻目に、
彼女は堂々と言ってのけました。

「公の姿でも、ずっと見続けていれば人の性格って、出るもんだよ」

ずっとってどのぐらい見てるのよ。
ビョンホン人気はせいぜい去年、一昨年の話でしょ。

問うてしまったが最後、彼女たちファンネットワークの
密な交流とそこで行き来する情報の量と質についての話を、
延々と聞かせる羽目になったのでした。

友人は元は、一人テレビの前で狂喜するだけのファンでした。
30代後半の夫あり、子供なしの有職者です。
それがどう発展して、おっかけにまで至るのか。

彼女は言います。
第一段階は、まずネットのファンサイトへの接触です。
過去ログを十分読んでから、「教えて下さい」
「あの番組を見逃しました。だれか録画した人いませんか」
と書き込みを始めます。情報収集の段階です。

第二段階は「イベント参加」。韓国は近いし場合によっては
地方在住者が東京へ往復・滞在するより安くので、
熱心な韓国スターのファンは、韓国開催のイベントを目指します。
映画の初公開の舞台挨拶、ファンクラブ主催の「ファンミーティング」
(本人が顔を出すことがある)等々。

「冬ソナ」ツアーのように、旅行会社がパッケージにするほど
大規模なものもあれば、韓国のファンクラブに加入していないと
得られない「極秘」イベントもあります。

大切なのは、イベントには「一人で参加する」ことです。
友達と二人、ではなく一人で。
友人も韓国イベントのパックツアーに、迷いに迷った末、
一人で参加しました。

「それが大正解だった」と彼女は言います。

行ってみるとそのツアー客の大半は、一人でやってきた女性達でした。
お互い一人、 何より同じスターに思いを寄せる
共通点を持つ者の集団です。

それにいくら韓流ブームとはいえ、同じ韓国スターを愛する人が
職場の同僚や自分の友人の中にそういるものではありません。
ツアー客の間には、誰かと語りたくてしょうがない空気が
すでに醸成されているのです。

「食事の時、イベントに向かう道中。普段はネットでの
書き込みぐらいでしか満たされなかった『語り合いたい』
欲求が爆発して、初めてあった人たちとは思えないほど
うち解けて、喋りまくったわ」

逆に二人組で来ていた人たちは、二人だけで固まって行動していたので
仲間には加わらなかったのだとか。

そこで生まれたつながりは、帰国後もしっかりと脈を打ちました。
録画したDVDのやりとり、出版物のチェック、あるいは韓国語が
できる人は韓国での出来事や作品の内容を「速報」したり。

「毎日仲間とはメールしてるよ。いろんな情報が入ってくるから
自分の友達に回して、また返事が来て。仲良くなってくると、
ちょっとプライベートな事も話せるようになってくるし。
それに普段はあまり接点のない、50代や60代の女性や20歳すぎの
若い子とか、年の離れた人たちと接することができるんだよね」

友人が「最もお世話になっている」という行動派ファン仲間の一人にも
話を聞かせてもらうと、まるで同じ感想を漏らすのです。
彼女たちがファン仲間を通じて、日々の暮らしに彩りあるものに
作り上げていることを、再確認したのでした。

「ファン」とは元々fanatic、狂信者、熱狂的愛好者との英語から
来た言葉です。けれども狂信という訳語からも伝わる通り、
「おかしなかわいそうな連中」と社会的に蔑まれて見なされることが
多かった存在です。
(「ファンの快楽」辻泉『ポピュラー音楽へのまなざし』勁草書房・所収)

確かに、ヨン様ファンの年配女性たちがホテルで、空港で興奮している姿を
テレビでみると、「実生活で満たされていないんだろう」と哀れみの
まなざしで見る人は多いでしょう。

けれどもその実を探ってみると、そこから生まれる新しい関係性を
享受するきっかけとして、「ファンであること」が利用されたのだ、
とも言えるのでは。あくまで結果的に友達ができたという話なのですが、
いくつになっても新しい人間関係は築きうるものなのだと、
私は彼女たちから教わりました。
     

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