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Vol.14 「チャングム」に学ぶ立身出世の極意
「もうメジャーでも、セリーグでもありません。これからはパ・リーグですっ」

と豪語したのは1年前、米球界から日本ハム復帰を決めた
新庄剛志日ハム外野手でした。

倣って「もう冬ソナでも、『美しき日々』でもありません、
これからはチャングムですっ」と言いたい気分なのです、今。

チャングムとは正しくは「宮廷女官チャングムの誓い」、受信料未払いに苦しむ
NHKがBS第2で放映中の韓国・歴史大河ドラマです。

大河、と聞くと「長そう」と尻込みしてきました。
でも、これは長くない、面白いから、と女友達に強く勧められ、見始めると−−
はまりました。韓国で視聴率57%を記録したというのも、分かる分かる。

このドラマは、16世紀初頭に王の主治医にまで上り詰めた女性がいた、という
歴史書の短い記述を元に、作り上げられました。
当時の韓国といえば、骨の随まで男尊女卑な社会。
なのに女が王の主治医になったとはいかに。

これは女の仕事の物語です。両親を亡くし、でも才能と正義感に溢れる少女が、
虐げられ、妨げられながらも、強くたくましく、時にちょっとドジを踏みながら、
起きあがる。

「おしん」の要素あり「家なき子」の要素あり(どっちも古い?)、
おまけに「料理の鉄人」や「スマスマ」的要素もあるのです。

というのはチャングムの仕事は宮廷の料理人。
出世を目指してライバルと料理対決を繰り広げます。

ある時の宮中の料理対決で、皇太后からこんなお題が出ました。

「水害の民を慮り、棄てるような材料で料理を作りなさい」

チャングムとライバルはともに、牛骨スープを思いつきます。
ライバルはありあわせの牛骨を使って3日かけて煮込もうとします。

かたや素材選びの才をもつチャングムは、これまでも、よく材料を探し、
思いがけぬ素材を見つけて画期的な料理を作り、勝利を収めてきました。
だから牛骨探しにとにかく時間をかけました。

しかしそれによって煮込む時間が足りなくなったのです。
そこで隠し味に牛乳を使い、短時間でこくを出そうとひらめきます。

さて勝敗はどうだったか。
皇太后はチャングムのライバルに軍配を上げたのです。
チャングムの師匠である上官は、高級食材である牛乳を使ったのは
ルール違反だとチャングムを叱りつけ、田舎へ暇を出しました。

おいしい料理を手早く作るためにがんばったのに、なぜ?
納得のいかないチャングムは、しかし、失意のうちに訪ねた田舎の寺で、
大きな出来事に遭遇するのです。

そこではおじさんが日がな、山菜や米、野菜を日に干しては夜しまう作業を
繰り返していました。

その何の変哲もない干し野菜や米で作る料理の美味なこと。
「宮廷のよりおいしい」と感動したチャングムは、おじさんに、
「秘訣を教えて下さい。何か秘訣があるんでしょ」と毎日つきまといます。

けれどもおじさんは「秘訣なんてないですよ」と知らんぷり。

ついて歩くうちに、チャングムは悟りました。
どうやら秘訣など、本当にないのだ。
ただおじさんが毎日、素材を大切に日に干してはしまううちに、
素材がおいしい味を醸し出すようになったのだ、と。

そして思い至ります。
「私に足りなかったのは、手間暇と真心だったのだ……」

たったこれだけのストーリーですが、いくつもの教訓が含まれていることが
分かりますよね。

今は効率、時間管理、と合理性ばかりが仕事においては求められる時代です。
だからこそ、手間暇と真心が足りなかったから人の心を打つ仕事が
できなかったのだ、というチャングムの内省には、視聴者の気持ちに
きっと響くであろう哲学があります。

それに、牛乳を使ったチャングムを厳しく罰し、理由は自分で考えろと
突き放した上官も、上司として、素晴らしい人物です。
才能を持つ故に、才に溺れる危険性を察し、釘を刺してくれたのです。

(ちなみに冒頭の新庄選手も、十年来のファンとして言えば、
長らく才に溺れそうなタイプではありました。が、昨シーズンの働きを
見ていると、ギリギリの所で溺れず泳ぎ出したようであります)

仕える人に食べていただくという意味で、料理は究極の「人」を相手にする
仕事です。福祉を学ぶ皆さんの仕事にも、大いに通じる世界なのでしょう。

よい物語は、設定の枠組みを超えて普遍性をもつものです。
物書きの端くれとしては、「王に仕えた女医」の一文からこの壮大な物語を
作り上げる、その着眼点に感服します。

ヨン様もビョンホンもいいですが、チャングムたちの繰り広げる
女の立身出世物語、読者のみなさんにも得るものがあるはずです。
   

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