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Vol.10 バイト先で客から話しかけられたら
「遠い人」ほど役に立つ。
何の話かというと、「人脈」論です。

「近い人」とは、家族や親友など日常的に接している人のこと。
「遠い人」とはその逆で、例を挙げれば旅行先で知り合った人とか、
自分の大学に他大学から教えに来ている非常勤講師とか、
自分の日常とはほとんど接点のない人を指します。

それが何の役に立つのかって。
たとえば転職です。

アメリカの社会学者マーク・グラノヴェッターが、転職をしたビジネスマンに
「転職に役立つ情報をもたらしてくれたのは誰か」と聞きました。
すると「疎遠な人」と答えた人の方が、「頻繁に接触する人」と答えた人より
多かったというのです。

東大の安田雪さんという社会学者が「人脈づくりの科学」(日本経済新聞社)
という本にこの話を紹介しています。

過日、私は安田さんに「人脈の作り方を聞く」という某雑誌のインタビューで
会いに行ったのです。

その雑誌は、おじさまが主な読者層のビジネス誌です。
おじさまが仕事以外の人脈を増やしたい、と思った時、
どうすればいいのか。

このテーマに対して、安田さんからは意外な答えが返ってきました。

「コンビニの店員に、なにか一言、話しかけてみて下さい」

コンビニでもガソリンスタンドでも弁当屋でもいい。
頻繁にいく店で働く若い人に、「こんな商品ある?」とか、
何でも良いから声をかける。それを店にいく度に繰り返す。

そのうち相手も、「今日もあの人話しかけてくるかな」と期待するようになる。
おじさまは、短い会話の蓄積の中から、店での売れ筋について、
若者の生態について、そしてその店員さんが気の利く子なのか、
仕事に熱意を持っているのかなどを知ることとなる。

――それが「人脈」なのです。
別に、仲良くなったら飲みに行くぐらいでないと「人脈」とは言えない、
なんて考える必要はない。
「明日もこの人と会う、話す」。こうお互いが思っていれば、
つまり未来につながる関係性であれば、それはもう、人脈です。

安田さんのお話はこうでした。

読者の皆さんであれば、おそらくこの場合、
「話しかけられる側」となるのでしょう。

そういえば毎日話しかけてくるおじさん、おばさん、いるなあ。
ウザい、と思って適当に聞き流していたけれど――。
なんて思い当たる節のある人も、あるいはいるかもしれません。

私がこの話を聞いて、思い出したのは14歳の美少年、柳楽優弥君が
カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を取った映画「誰も知らない」でした。

長男役の優弥君と弟、妹2人の4人兄弟が、男狂いのお母さんに
捨てられて、学校にも行かずに4人だけで都会の片隅に、
ひっそりと暮らしている。

この物語において、彼ら4人の命を支える重要な役割を果たしたのが
コンビニの店員でした。

料理のできない優弥君たちの食生活は、すべてコンビニの食品です。
親の残したなけなしのお金をはたいてカップラーメンを買いに来ていた
優弥君は、次第に、髪も伸び放題、服もほつれてボロボロのまま
店に来るようになる。

見かねた若い男性店員が、店長に黙ってこっそり、廃棄処分用の
おにぎりを店の裏口から手渡してくれるようになりました。

おそらく優弥君たちは、店員の名前も知らないでしょう。
そんな遠い存在の人が、実の親よりも実質的な、日々の命の恩人となる。

「遠い人ほど役に立つ」の典型例だな、と思いました。

さて、話しかけられてウザいな、と思った心覚えのあった人。
安田さんのおじさま読者へのアドバイスによると、ただコンビニの
店員であれば話しかける相手は誰でもいいわけではありません。

一言交わすうちに、相手が何か光るモノを持った人であるかどうかは
見えてくるもの。そういう人を選んで、話しかけた方がいい、とのこと。

つまり話しかけられているということは、相手から「何か見所があるな」
と思われている――かもしれないのです。

「遠い人」とは、自分の日常とは離れた世界に住む人のことです。
そんな人と、かすかな形であれつながることの面白さとは。
何か想像もしない事が起こるかも知れない、という期待感に
あるのでしょう。

もちろん、何も起こらないかもしれない。それならそれで、
遠い世界との接点を日常生活に作ることそのものを、
楽しめばいいだけの話です。

転職情報をゲットできた人たちも、まさか最初からそれを期待して、
疎遠なつながりを維持していた訳ではないはずです。      

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